空冷エンジンは高温が嫌い
水冷エンジン全盛においてあえて空冷エンジンを採用するバイクはまだあります。
考えらえる理由は主に2つです。
- コストダウン(ラジエター、冷却液ポンプ、センサー等々が不要となる)
- デザイン性、意匠(空冷シリンダーの放熱フィンがそのバイクのアイデンティティーとなる)
600cc以上で空冷を採用する場合は油冷システムを積むものが多く、空冷エンジン+αの冷却を必要とするものが殆どです。
最適なエンジン温度
エンジンオイルは低温から高温まで広い温度範囲で粘性を維持しピストンリングとシリンダー壁面間に油膜をつくり、摺動する部分の保護してます。又、空冷エンジンにとって、オイルはピストン燃焼室から出る熱をオイルが吸収してオイル循環経路で放熱するという大切な冷却システムの一部として機能しています。
ピストンの上死点における温度異常(ミスファイヤ)を発生させないためには、エンジンオイルの温度を85℃までに抑えることが大切です。
一般的には85℃でエンジンがベストコンデションとなるよう各部品のクリアランスや動作タイミングが考えられてます。
85℃を超えるとどうなるの?
85℃を超えた状態でエンジンが動き続けると良くないことが起き始めます。エンジンオイルで最も高温に晒される部位はどこでしょか?
それは前述したピストンの上死点で燃焼室に接するピストンリング近傍のオイルです。
オイルはエンジン内を循環しています。一般的にはオイルパンにあるオイル温度が一番低く、ピストンリングが一番高くなりますが、その温度差は50~60℃です。但しオイルクーラーが付いている場合を除きます。
仮にオイルパンの温度が100℃まで上がっているとすると、エンジンを巡るオイルも最高温度はピストンリング周辺であり、例えば60℃上昇すると160℃にもなります。
高温に最も耐性がある化学合成オイルなら180℃が耐用限界、通常オイルなら160℃以下が耐用限界なので殆どマージンがありません。(一般論です)
真夏が苦手な空冷エンジン
真夏の渋滞路でノロノロ運転した後にストレートでエンジン回転数を上げた際に、『あれ?いつもよりパワーが出てないかも...』と感じたことはありませんか?空冷エンジンが夏場にパワーダウンする現象は確かにありますし、それには理由があります。耐用限界を超えた超高温オイルにまみれたピストンやピストンリングはオイルの劣化と伴にデジポットが発生し付着し始めます。
そうなると、ピストンリングとシリンダー内壁間の摺動を阻害します。
オイル燃焼による白煙やオイル消費(オイル量の減少)が発生し始めます。
長期に渡ってこの状態を続けていると、最悪はエンジンを壊してしまうでしょう。
また、超高温はピストンを熱膨張させます。設計計算以上の熱膨張はピストンの寸法を変化させ周辺摺動部とのクリアランスを減少させることになるのです。
金属が熱膨張するのは良く知られた話です。従ってエンジンが冷えた時にクリアランスを許容できるギリギリまで大きくして、熱膨張した場合でも最低クリアランスが確保できるように設計されてます。
具体的にはピストンリングが嵌っているピストン上側は少し小さめの直径で寸法加工されており、高温時(設計温度は85℃)にこの小さめの径が熱膨張してベストな寸法になるように設計されます。
85℃を超えたらどうなるか?
摺動部分のクリアランスが小さくなっていくので、ピストンのスムーズな動きが阻害される側に変化しはじめます。そもそもなぜ高温になるか?
簡単な質問ですので誰もが答えるでしょう! ガソリンが燃えるときに熱を出すからだと。もちろん正解です。それではガソリンがエンジン内で圧縮された状態で点火された時の燃焼室の想定温度は?
こんなマニアックな話をしても誰も喜びませんが...
一般的には1640℃以上というデーターがあるようです。圧縮比などで若干変わるようですが、2500℃を超えることもあるとか...凄まじい高温状態です。
アルミ合金製のピストンの融点は670℃ぐらいなので溶け始める温度を超えてます。
なぜ溶けない? ピストンさん!
スペースシャトルも大気圏突入時の大気摩擦で表面が高温になります。但し、表層だけを高温に強いセラミックで覆うことで燃焼を食い止め、更には断熱材で内部への温度伝播を遮断することで物質が熱破壊することを防いでます。エンジン内部でピストンを守る役目を担っているのは何でしょうか?
オイルの話をしてきたので『エンジンオイル』と答えたいところですが、オイルは燃焼室まで到達しません。ピストンリングまでですね!
となるとスパークプラグで点火されたガソリンが高温で燃焼しながらピストン表面に到達する際に何が起こっているかを考える必要があります。
断熱境界層(熱境界層)
いきなり聞きなれない言葉を見出しに書きました。(笑)実は燃焼が進む過程では高温の燃焼が進む過程で燃焼部分の外側に空気の薄い膜(2mm以下)ができ燃焼温度が直接金属に伝わらないようなにしています。
乱暴な言い方をすると、薄い空気の層で高温の燃焼温度が直接ピストンに触れないようになっているのです。
万能ではない熱境界層
『そうなんだ~安心した』と思うのはまだ早すぎます。実は熱境界層は万能ではありません。シリンダー内部で起こる燃焼とは、スパークプラグの電極間で着火された燃焼がその周辺へと次第に周辺に広がっていく現象です。
通常の燃焼なら熱境界層が安定して断熱の働きをしますが、安定しなくなる場合があります。
ノッキングデトネーション(ノッキングプレイグニッション)
エンジン内部でまれに発生する異常燃焼に伴って「カカッ♪」「カラカラ♪」といった音を聞いたことがありますか?マニュアルトランスミッションの車を乗っていた世代の人はピンとくると思います。
高いギアでアクセルを踏み込みすぎるとエンジンルームから聞こえたあの音♪です。
この音が聞こえたらデトネーションが起き始める直前のシグナルだと思ってください。
デトネーション(爆轟)というと聞きなれないと思いますが、要は衝撃波を伴った燃焼爆発です。
デトネーションが発生するメカニズム
衝撃波はその名の通り、物質に衝撃を与えるほどの威力を持った波動です。ジェット機が音速を超えて大気中を突き進みら飛行した際にも衝撃波が発生します。
この衝撃はの影響で近隣の住宅のガラスが震えたり、壁沿いに立っていると地響きのように聞こえたりします。
実はピストンリング周辺が高温になり過ぎてスパークプラグの着火とは別に勝手に着火燃焼を引き起こす異常な現象が起きることがあります。
そうなるとピストンリング起点とプラ部電極起点の2つの燃焼が同時に始まります。
双方から燃焼が開始すると、それに伴う体積膨張がぶつかって衝撃が発生します。
衝撃波の影響
衝撃波の凄まじい波動により、熱境界層が吹き飛ばされ瞬間的に金属部が露出する可能性があります。露出した金属表面は熱の影響をもろに受けて、融点が低いアルミのピストンが溶け始め、最悪の場合ピストンに穴が開いたりします。
油温を適切に管理しよう
エンジンオイルは機械同士の潤滑の為だけではなく、金属を冷却する役目もあります。エンジン内部で金属同士が擦れ合って、摩耗粉がオイルに混入し黒く見えたりします。
但し、オイルの温度が上がり過ぎて黒く変色する場合もあります。黒く変色したオイルは粘性が低下したり本来持っている金属の冷却機能が劣化したりします。
いろいろ書きましたが、要は空冷エンジンではオイルの温度を耐熱温度160℃以上にしてはダメということです。
もし、真夏の渋滞路を走るなら使用状況に応じて高級なオイルを使ってマメに交換してエンジンを労わってあげてください。そうすればエンジンが長持ちすることでしょう!
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